ショウ・スズキ フロムオキナワ

よろしくお願いします

嘘つきか正直者か

幼い子どもはやがて誰もが嘘をつくように成長する。

嘘は人間に備わった高度技術なんである。

でも大人は基本的に「嘘はいけません」と指導する。

 

保育園でこんな事があった。

僕がトイレに行こうとすると

 

「どこへ行くの?」

 

と、ある子が言うので

 

「トイレだよ」

 

と言い、トイレに行った。

ついでに休憩室に寄ってパソコンを取って、

それから保育室に戻った。

 

すると先ほどの子が僕の事をみんなに向かい

 

「どこに行ってきたのか?先生は嘘をついているぞ」

 

と非難してくる。

 

僕は

 

「なんで?トイレに行ってきただけなのに」

 

と言うと

 

「嘘だ、だってパソコンを持っているじゃないか」

 

と言うのだった。

 

なるほどそういう事か。たしかにそうだ。

嘘をついている認識はないが

言い分は正しい。そのように認めるとその子は

 

「ほら、やっぱり嘘をついていたんじゃないか!」

 

と鬼の首をとったかのように盛り上がっている。

 

僕の内心は

 

「まぁまぁ、子どもって大人のミスを喜ぶものさ」

 

というよなものであるが、やっぱり少しは嘘つき呼ばわりされて嬉しくない気持ちもある。

 

なので反撃として、

 

「なんだい、じゃあ君は嘘をつかないっていうのかい?」

 

とたずねた。

 

ここで「ああ僕は嘘なんかつかないよ」

 

とでも言ったものなら、先ほどの僕への非難の真似でもしながら(つまり鬼の首をとったかのように)「嘘をつかない人間なんていないんだ、ということは君は嘘つきだ」

と意地悪を言ってやるつもりだった。

 

ところが、やや迷った上でその子の返答は

 

「ううーん、まあ、そうだな、嘘はつくよ」

 

と正直に認めるものだから

 

「えらい、君は正直者だ。僕が参りました」

 

というそんなやりとり、それだけ。